『君とボクの虹色の世界』でカンヌ映画祭のカメラドールを受賞したアーティスト、ミランダ・ジュライが監督・脚本・主演をこなした作品。同棲中の35歳のカップルが、現状を打破しようともがきながら崩壊していく様を、独特の世界観のもとに描く。
猫や月の視点で語り、Tシャツが蠢く。ファンタジーでありながら、逃れられない強烈なリアリズムの映画である。ふとしたことから「もう(人生の)時間がない」と気づいた二人は、彼らなりに解決への糸口を探し出そうとする。手始めは、インターネットをやめること。
現代人は、あらゆることに「プチ」な期待をしているのだと思う。プチ美味しい、プチ楽しい、プチスリル・・・。その「プチ」が叶えられないと、「プチ」ストレスが重なっていく。この、まるで靴擦れのように少しずつ作られていく傷は、やがて耐え難いほどの痛みになっていく。主人公のカップル=ソフィーとジェイソンは最初は同じ場所に立っているが、それぞれ新しいことに挑戦してから少しずつその距離が広がってしまう。結局、自分の成長に繋がることが何もできないソフィーは「何となく」浮気をしてしまう。
上手く行かない創作ダンスの音楽さえイライラを煽り、全編に漂う鬱モードに漠然とした不安を抱かずに居られない。概念の崩壊や時間感覚の狂い、一見意味のない一人遊び。私たちにとっても痛いところを突かれたようなシーンが多く、不快な気持ちにさえなる。だが、それはまんまとミランダの世界に誘われたことにもなるのだ。
勝手に時間を止め、現実から逃げていた二人。預けていた猫の運命は、それがどんなに取り返しのつかない結果を招いたかを物語る。難解だが、こういう抽象的な表現はマザーグースや絵本の世界にも通じる。ガーリーで可愛らしい姿をしたシビアなミランダ・ワールドは一見の価値あり。 (池辺 麻子)
the Future ザ・フューチャー
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